[No.3250]
#29「ガソリン生活」伊坂 幸太郎
この本の主人公は、望月家のファミリーカーである、緑のデミオです。クルマとクルマが会話する、クルマと人間が会話できるわけではない、という拙者の知らない世界が展開されています。
望月家の長男が運転する緑のデミオに、急に有名女優が乗せてほしいと言ってきます。車中で会話を楽しみ、指定の場所に下した数日後、その有名女優はトンネル内の交通事故で亡くなった、と知ります。週刊誌の記者に追いかけられ始めます。
望月家の次男、なかなか知恵があり、こまっしゃくれた言動で、クラスのいじめっ子に目を付けられています。でも、冷静で状況も大人より合理的に判断できます。
望月家の長女、交際相手が不穏な先輩に付きまとわれて、何か怪しげなことをさせられそうになっています。
そんな様子は緑のデミオは全部わかっています。日常生活ではそんなこと起きないかも、という出来事も、些細な日常生活の連続のように綴られる伊坂作品の特徴が楽しいです。
急に乗せて数日後に亡くなった女優、女優を追いかける週刊誌の記者、次男をいじめるクラスメイト、長女の交際相手と不穏な先輩方、先輩方の親分、出会ったクルマ同士の情報交換、緑のデミオが家族に思いを馳せる愛情、いろんな関係が、読む進めるうちにまさかの伏線を感じ取れる快感があります。
ファミリーカーがそんな思いを持っているかも、という気持ちにもさせてくれます。新車で購入したら3年で車検、それを機会にクルマを代えるユーザも多いかもしれませんが、じっくり同じクルマに乗り続けるのもいいと思います。
最後のエピソード、ほっこりとした気持ちになれます。望月家のみなさんのその後もわかります。
500ページを超える長編、でもついつい一気読みです。
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