[No.3099]
#54「きつねのはなし」森見登美彦
少しの間住み、長く仕事の場でもあった拙者にとっては、京都は思い出もあるし、思い入れもある街です。
1600あると聞かされていた寺社仏閣が埋もれるように、町屋の家々があったり、細い路地の夕方や夜の影には、「陰」、「妖」や「邪」すら感じるような気になりました。何かを見たわけではないですが、平安京の時代、応仁の乱、室町幕府の頃からの積み重なった「怨」や「恨」もあるように思いますし。
森見ワールド、今回も引き込まれました。人混みの中にいるキツネのお面や暗闇の路地を蠢いて、取り憑く存在の「何か」。
必要以上に心を許して油断して接する危うさ、有象無象の存在が行き交う都で生活する中に潜む、蠢く「何か」は、やはりあるような気がします。
骨董屋でアルバイトする学生、学生の大学の先輩、先輩の彼女、蔵を持つ骨董屋の馴染み客、それぞれの話で登場する「何か」は、何だったのか。
目に見えるだけが全てではなく、今だけが全てではなく、いろんな「何か」に影響を受けながら毎日の生活が繰り広げられ、何があろうとも、明けない夜はなく、止まない雨はない。そんな当たり前に潜む「何か」に思いを馳せると、いろんな人や今に感謝できる気もしました。
これまでの森見ワールド作品と趣は違う気もしますが、やはり一気読みでした。
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