[No.3974]
#72「労働と独占資本」ハリー・ブレイヴァマン
学生時代の研究のメイン文献でした。アメリカの労働市場がテーマの主要な内容でしたので、重要な文献でしたし、会社で働くと言う意味や社内での処遇とかを理解することに役立ったことは間違いありません。入手の経緯も忘れる事はないです。
社会人経験を長く持つ大学院の先輩には言われていました。あなたが実際に会社で働いて社会人経験を積むと、この本に書かれている研究成果をもっと理解することが出来る、と。
本を入手して読んで四半世紀が経過しましたが、いつも手元に置いていた本を再度読んでみました。
先輩のおっしゃってくれたとおりでした。
執筆当時は、機械化やオートメーションの隆盛、コンピュータの事務作業への導入という変化が起こっていたと思いますが、その後コンピュータの汎用化、インターネットのビジネス利用、そしてAI利用の増加が起こっている変化、ブレイヴァマンさんならどんな視点やコメントを聞かせてくれるだろうか、と思います。
独占資本についてあらためて調べると、定義は銀行資本と産業資本が融合して生まれた資本形態であり、日本の財閥に相当するとも言える、とのこと。
資本家は上場株式会社の経営陣とも違うように思いますが、独占資本を会社の経営層として捉えて読んでも、そんなに違和感はないかもしれません。
労働過程の分断、分解に伴う労働の価値の相対的で絶対的な低下、学術的に整然と言語化することは拙者には難しいですが、これまでの社会人経験で見た事、聞いた事、感じた事と照らし合わせて、とても納得感があります。
この研究の素晴らしさの一つは、ご本人の銅配管職人としての経験の他、食肉加工、織物業、自動車工場などの職場の実際を自分で経験したり、見た事からの考察であり、他の社会科学者の企業内分業の考察とはリアリティも違うし、社会的分業の意義と企業内分業の意義を議論として混在しないようにしている事、と読んで感じました。
1974年の研究であり著作ですが、会社という組織の辿る成長や組織の編成の変化、この2025年の今までをも見通しているような感覚を覚えます。
日本の失われた30年と言われる経済低成長について、その主たる要因がこの本を読んで気付いたような気がします。
第12章の現代の株式会社、第15章の事務労働者は。この章だけでも大きなスケールを持つテーマですが、実際の労働過程を知る著者の具体的で普遍的な考察が、拙者には刺さりました。
また会社組織の中で成果を出す、ポジティブな評価を得る為のポイントやコツが、反面教師的に透かして見えたような気もします。価値の定義すら簡単ではないのですが、価値ある成果を生み出すビジネスマン、と労働市場で評価される事が、やっぱり重要だと思うし、目指そうと思います。
経営的な立場であれば、何を目的に事業活動を行い、どんな利益還元を行い、地域社会やマーケットにどんな存在意義でありたいか、のバランスを実践できるビジネスマンになれたらいいなぁ、と思います。具体的な方法はまだまだ模索ですけど。
組織内で自分のキャリアを磨きたいと考えるビジネスマンは、この本を読んでいろいろ考えてみたらいいと思います。
どんな思いや視点でこの研究をしたのか、著者に対する興味もわいてきました。序文も訳者後書も全部読みました。日本語訳で助かりましたが、わかりにくい記述もあるので英語の原書を読んでみようと思います。