[No. 3572]
#89「新訳 ガリア戦記」ユリウス・カエサル
聞いたことがあるけど、読んだことはない著名な本を読んでみようシリーズであります。古典として有名すぎるほどに有名なガリア戦記、まずはカエサル自身が書いたガリア地域(今のフランス、ドイツ、オーストリア、ベルギー、ポーランド、イギリスなどのローマから見てアルプス山脈の向こう地域)を、戦争で行軍していく日記ですね。
「カエサルは」と書き出す、一人称ではなく三人称で書かれています。行軍の中で書き続けたモチベーションとは何だったろうかと考えたら、割とシンプルな仮説が持てました。
自分の行軍の功績を残したかった、ということに尽きると思います。武功を手土産にローマに凱旋しようとしてと思われます。当時の様子、特に元老院の威光や勢力が分からないのですが、武功をアピールすることでのし上がろうとしている感じはあります。
アウレリウスの自省録を知った時は、五賢帝の一人であるアウレリウス自身も、平和を望み、自己の悩みと政治や統治という社会的身分としての役割に挟まれて、思索する様子が親近感を憶えました。ガリア戦記を読むと、とにかく軍営の移動、捕虜の受け渡し、占領地での収奪や焼き討ちなど、当時の戦争でよくあったこととは言え、領地を広げることに対して、自己的な欲求の強さばかりを感じます。
この発想は、大英帝国と呼ばれたイギリスやスペインの植民地政策と同じように思います。自国の繁栄のために他国を攻める、という発想は、資源の入手、歴史や宗教的な意義などを背景になかば正当化される場面がありますが、現代では単なる独裁者として映るのだと思います。
共和制ローマ後期の様子を知ることができる、という意味では古典として有意義ですが、アウレリウスの「自省録」を知った時ほどのインパクトは、拙者にありませんでした。